交洋不動産株式会社(以下、交洋不動産)は社名にもある通り不動産業を営んでいる会社です。しかし、アパートやマンションといった「家の賃貸」ではなく、オフィスビルを賃貸している会社です。交洋不動産は、札幌に2か所、道内では旭川と北見、道外では東京の虎ノ門の3か所、計5か所に不動産を所有して不動産賃貸業務を行い、他に管理受託業務、不動産仲介業務を行っています。交洋不動産が所有する札幌のビルは「北洋大通センター」(大通西3丁目7)と北洋ビル(大通西3丁目11)の2つです。北洋大通センターは北洋銀行さんとの区分所有ビルとなっており、交洋不動産の所有は地下2階~地上4階の一部商業エリアと、地上13階~18階の交洋不動産本社および賃貸オフィスエリアとなっています。
今回私たちは、不動産業を行う会社のSDGs経営への取り組みに関するお話や、取り組みを支えるビルの心臓部とも言えるビル裏側の見学を通じて、SDGs経営という点からオフィス賃貸によって「魅力ある街づくり」に挑む企業に迫ります。
札幌中心部の再開発とオフィスビル賃貸の在り方~時代と共存するオフィスビルとは?~
皆さん、札幌中心部の再開発が行われていることはご存じでしょうか。
北海道新幹線開業を見据えて、老朽化したビルの建て替えや、オフィススペースの不足への対応が主な理由となっています。札幌中心部の再開発により、新たなオフィスビルが大量に供給されます。
現在のオフィス賃貸業務を取り巻く環境がこのように大きく変化していることは、交洋不動産のお客様にとって、現在入居しているオフィスビル以外にも選択肢が増える、つまり新しく建築されるオフィスビルへ移転してしまう可能性が高まることを意味します。時代の流れに沿って賃借人の方々がSDGsへの取り組みを意識すればするほど、環境に優しいオフィスビルへのニーズが高まっていきます。そのような状況でも交洋不動産のオフィスビルが選ばれるようにしていくためには、自社として「SDGs経営」へ取り組み、賃借人の方々にも環境配慮型のオフィス環境を提供出来るように取り組んでいる、とお話をしていただきました。これは、交洋不動産にとってのお客様のニーズを満たすために、自社所有のオフィスビルを時代に合わせたビルとすることで、オフィスビル同士の激しい競争にあっても会社として生き残っていくために必要なことだと思います。
阿部社長からのお話の中でとても印象的だったことがありました。
「企業がSDGsへ取り組むことは一見すると企業業績の向上と相反するイメージを持たれるかもしれない。だが、本当のSDGs経営は社会課題の解決と企業の業績向上が“両立”していることである」と語ってくださいました。
阿部社長のこの想いが、交洋不動産の取り組みを支える源泉なのだと率直に感じました。
阿部社長(左)と矢島副社長(右)が想いを話してくださいました
環境配慮型オフィスビル実現のための4つの取り組み~ハードとソフト両面への投資~
札幌市中心部の再開発が活発化しており、新しく建築されることを受けて、交洋不動産では札幌市内の自社所有オフィスビルを時代に適合する「環境配慮型」とするために4つの取り組みを行っています。
1つ目は「ビル設備の運用面の工夫による脱炭素への取り組み」です。
大通BISSEが入っている北洋大通センターでは、「ダブルスキン構造」と「エアフローウィンドウ制御」を採用しています。ダブルスキン構造とは内側と外側の2枚のガラスの間に空気の層を形成することで、夏は日射熱をカットし、冬は断熱の役割を果たします。エアフローウィンドウは室内の空気を床下からダブルスキン経由で天井へ送り循環させる仕組みであり、ダブルスキン内の通気調整用ダンパーは自動制御され、暑いときは開き、寒いときは閉じるなどすることで、最適な環境を維持できます。このような工夫で、冷暖房のエネルギーを減らして、温度管理の安定化と省エネルギー化を果たしていました。
ダブルスキン構造とエアフローウィンドウ
2つ目は「自社所有ビル照明のLED化による省力化の実施」です。
交洋不動産で所有しているビルは北洋ビルと北洋大通センターの2つがあります。2014年度から2024年度の間に、これら2つのビル照明を全てLED化しています。
特に大通BISSEが入っている北洋大通センターでは、2021年度から2024年度にわたっておよそ5億円強をかけて北洋大通センター全館の照明約13,000台を全てLED化しました。LED化することでエネルギー消費量を7割カットできるそうで、さらにセンサーと自動調光システムによって、必要な場所に必要な明るさを提供することで、省エネルギーと利便性を両立しています。この取り組みにより総電力削減量は136万kWh、約340世帯の年間電気使用量と、総CO2削減量830t、約280世帯分の年間排出分の削減を実現しています。コストはかかりますが、このような取り組みがお客様からの信頼につながるそうです。
オフィス室内の天井照度センサー
3つ目は「再生可能エネルギー利用の電力プランへの切り替え」です。
2024年に交洋不動産では電力プランを北海道電力が提供している「カーボンFプラン」に切り替えました。これは「CO2排出量を実質ゼロ」にするカーボンニュートラルに資する取組みであり、2024年度のCO2排出量は1,663t-CO2にまで削減され、2013年度と比較して削減率はなんと66%!CO2排出量削減にとても貢献度の高い取り組みの1つとなっています。
出展:北海道電力 カーボンFプランページより
4つ目は「人的資本経営の実践」です。
人的資本経営とは、「職員一人ひとりの会社に対する愛着心を重視しながら人材を資本として捉えながら、その価値を最大限に引き出すことによって、中長期的な企業価値に繋げていく」取り組みのことを指します。企業活動には「従業員」の方の存在を欠かすことは出来ません。交洋不動産で働く皆さんが安心して働けるように、「ワークライフバランス」環境を整えています。例えば、育児休業については法令上は子が2歳に達するまでと定められていますが、交洋不動産では子が3歳に達するまでと、従業員の方の声を反映した制度設計と運用を実現しています。
これらの取り組みを通じて「サステナビリティ志向」の入居者様を獲得し、「選ばれる」オフィス賃貸ビルの実現を目指しています。
お客様からのニーズと真摯に向き合うことを体現している企業だと感じ、交洋不動産の企業理念である「オフィス力で企業の可能性を広げる。」に触れることが出来ました。
また、選ばれるオフィスビルとするために企業努力による設備投資を行っているということを力強くご説明いただき、誰かの仕事は誰かの一生懸命に支えられていることを知りました。
オフィスビルの心臓部としてのインフラ設備~北洋大通センターの裏側に迫る~
皆さんはビル、特にオフィスビルの裏側を見たことがありますか?
今回の取材では交洋不動産の札幌市内に所有するビルのうち「北洋大通センター」のインフラ設備を見学させていただきました。単なるビルのインフラ設備であるだけでなく、エネルギー効率の最大化や使用電力量の抑制を実現している設備や、災害時といった非常用の設備など、まさに「ビルの心臓」とも言える高度インフラ設備の裏側をみなさんにご紹介します。
地域冷暖房とターボ冷凍機
北海道熱供給公社の熱源プラントより受け入れる冷温水と、それとは別にほくでん深夜電力を利用しターボ冷凍機で地下の大きなタンクに蓄えた冷温水の2種類を組み合わせて各階の空調設備へと供給しています。地域と連携した熱利用により、ビルから排出されるCO2排出量の削減に繋がっています。また、複数の熱源を利活用することで冷温水の安定供給が可能となり、季節によって最適なエネルギー効率を実現しています。
左:熱供給機械室、右:ターボ冷凍機
スポットネットワーク
複数の受電回線を持つことで高い信頼性を発揮できる電力供給を実現しています。
1つの回線が故障しても、他の回線でカバーし、無停電による運転を可能としています。3回線、33,000Vの特別高圧で受電しているそうです。その受電した電気を小さい電圧へと変換して使います。緊急時や非常時でも電力の供給を確保することが出来ます。
スポットネットワーク これを含めて3つあり、1つが1回線の役割を担っています
非常用発電機
屋上にはビルから出た空気を排出する大きなファンや非常用発電機などもありました。
非常用発電設備は、災害時などでも電力の確保が可能です。照明やエレベータに使用する通常の電力供給に加えて、防犯カメラや警報設備といった保安用電力供給などの合計、10時間稼働を想定しており、最長連続稼働時間は48時間と丸2日間の電力供給を実現します。
平成30年に発生した胆振東部地震の際には実際に本設備が稼働しました。
大通北洋センター屋上に設置されている非常用発電設備
取材を通して
自分たちも実際に訪問してみるまでは、不動産会社がどうSDGsの活動に結びつくのか、実際にどんな業務内容なのかなど全く分かっていませんでした。でも訪問してみると、思っていたよりも規模の大きい話で、ビル全体で脱炭素やゼロカーボンを推進していて、毎年CO2排出量を減らす努力をして、年々着実に減らしていました。
何よりも自分たちが一番すごいと感じたのは、莫大なお金をかけてでも、環境にいいビルを作ることを意識していて、今はお金がかかっても、のちに大事になるという先を見据えた計画を立てているところにとても感動と意識の高さを感じました。
交洋不動産さんのSDGs経営についてのお話や、実際のビルの裏側を見学させていただくことが出来たことは貴重な経験となりました。本当にありがとうございました。
【札幌商工会議所付属専門学校 左から青山、中塚、伊藤】