学生取材しました!

廃棄食材を価値ある一品へ

アイビック食品株式会社製造業

公開:

SDGs目標

  • 12. つくる責任 つかう責任
  • 7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに
  • 8. 働きがいも 経済成長も
  • 13. 気候変動に具体的な対策を
  • 17. パートナーシップで目標を達成しよう

アイビック食品をご存じですか?

 「タレといえば?」と聞かれると、多くの方がスーパーでよく見かける某有名メーカーを思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、今回ご紹介するアイビック食品の商品は、一般のスーパーではあまり見かけません。「では、どこで購入できるのか?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
 アイビック食品の商品は、主に飲食店や道の駅向けに販売されています。焼肉店やラーメン店、ホテル、食品メーカーなど、プロの現場で使用される本格的な調味料を手掛けていることから、一般のスーパーではあまり目にすることがなく、「知らなかったけれど、実は食べたことがあるかもしれない」という方も多いのかもしれません。
 そんなアイビック食品の魅力を探るため、専務取締役経理部長の木村さまにお話を伺ってきました。

釣具業界から食品業界へ~異色の挑戦~

アルトラーチェ商品の陳列棚

 アイビック食品はもともと、「釣具とアウトドアの総合卸売業」から独立した企業です。2002年に食品製造業の企業として設立し、だしやタレ、調味料の製造をメインに事業を展開しています。さらに近年では、「ARTLACZE(アルトラーチェ)」というお店を承継し、北広島市にあるF VILLLAGE近くに、ピザとジェラートの専門店をオープンしました。食品製造販売から飲食店経営まで、挑戦を続ける企業です。

 

 

 

 

どんなタレでも開発可能~3,000種類以上の実績~

 アイビック食品は、これまでに3,000種類以上のタレや調味料を開発・製造してきました。「どんなタレでも作る」という理念のもと、企業や飲食店のニーズに応じたオリジナルの製品を提供しています。
 そんなアイビック食品では、様々な視点からSDGsに取り組んでいます。この記事では、タレの「製造」に関する3つのSDGsに関する取組についてお伺いしました。

食品ロスを減らす新たな商品開発

 1つ目は、廃棄食材を用いた製品を研究・開発するという取組です。アイビック食品が研究・開発を行う廃棄食材には、根昆布(昆布の根元から15cmの部分)や、規格外のトマト、ニラの根元などがあります。生産者の方々から相談を受け、アイビック食品がそれらの廃棄食材を用いた商品を開発するそうです。アイビック食品はタレや調味料を製造しているため、食材を「クラッシュ」して用いることができるのが強みです。味は良いのに見た目が良くないなどの理由から捨てられてしまう食材も、クラッシュすることでうまく活用することができます。廃棄食材を活用する取組は大きな利益が得られるわけではないものの、社会貢献的な活動として取り組んできたそうです。しかしながら、この取組は口コミで広まり、食品ロス削減への動きにご賛同いただいた新しいお客様が増え、結果的には会社の業績は上がったとのことでした。
 「もったいない」を解消するだけでなく、廃棄物削減に伴うCO2排出量の削減とともに、企業の成長を実現することもできる素晴らしい取組であると感じました。

食品ロスの削減に関する取組

CO2排出量の削減だけではない。容器軽量化の取組。

 2つ目は、CO2排出量を減らすための取組です。
 これまではタレをビンの容器に入れていましたが、プラスチックの容器に変更することで軽量化を行いました。これにより、一度にトラックに積むことのできる製品の数が増え、トラックがアイビック食品の工場と取引先とを往復する回数を減らすことができました。
 さらに、容器がプラスチックになったことで容器が割れる心配が減り、従来の厚めの段ボールよりも薄手にすることができました。
 その結果、容量の軽量化に関する取組だけでCO2排出量を年間83tも削減することができたそうです。
 こうした取組は、CO2排出量の削減だけでなく、担い手不足が顕著なトラックドライバーの負担も減らすことにつながります。トラックドライバーの労働時間の制限に伴って生じる2024年問題の改善にも寄与しており、多方面の社会課題の解決に貢献している会社といえます。

物流のCO2排出量削減に関する取組

DX化による人手不足の解消と生産性の向上

 3つ目は、DX化に関する取組です。アイビック食品にとって人手不足は重大な問題です。持続可能な生産体制を実現するため、生産ラインのオートメーション化に取り組みました。オートメーション化によりこれまで10人で行っていた作業を4人で行えるようになったというお話を聞き、生産性の向上が進んでいることを実感しました。人手不足の解消だけでなく、品質の維持・向上というメリットも得られるため、ロボットが製品を作り、それを人が管理する「スマートファクトリー」を目指しているそうです。

働きやすい環境~充実した福利厚生~

 アイビック食品では、従業員を非常に大事にしており、まず印象に残ったのが有給休暇を「豊かさの実現休暇」という名称にしていることです。有給を消化し、自身の生活を豊かにしてほしいという思いからこの名称にしており、取得義務である5日間の有給休暇を消化した従業員には「豊かさの実現手当」を給付し、豊かさを実現するための費用に充てていただいているとのことでした。
 さらに、従業員のスキルアップやモチベーションの向上を図るため、業務に直接関係のない資格でも、資格取得した場合5,000円の奨励金を支給したり、40歳以上の社員にはがん検診の補助を行うほか、従業員間の交流を促すため、毎年の社員旅行(過去には沖縄や京都など)や、ゲストハウスを設置し、宿泊や食事スペースとしての利用を可能とするなど、福利厚生も充実しています。
 これらの取組も起因し、アイビック食品の離職率はわずか3.9%で、一般的な平均離職率が10~15%であることを考えると、非常に定着率の高い職場環境であることがわかります。
 実際に、取材を受けてくださった木村専務と総務部の朝日さまのやり取りを見ていると、日頃からフランクにコミュニケーションを取っていることが分かりましたし、アイビック食品は、非常に働きやすい環境であると感じました。

「見える化」への意識

 アイビック食品は、2017年からSDGsに関する取組を行っており、まずは社内にSDGsの重要さを浸透させることが重要と考え、社内にポスターを貼ることで従業員全体への理解を促してきたそうです。
 このほか、製造業はどうしても大量の電気を消費してしまうことから、電気量を少しでも減らすため、電力改善装置を設置し、約10%もの消費電力を削減できたそうです。その際、「見える化」を意識したことがカギだったと木村専務はおっしゃっていました。
 こうしたSDGsの取組を始める際、まずは自分たちが実施できている点とそうでない点を、イラストやExcelに落とし込み、「見える化」したそうです。アイビック食品は「見える化」を徹底し、効率的に問題解決へと向かっている企業であるということが伝わってきました。

アイビック食品のSDGsに関する取組をマッピングしたイラスト

クライアントを支えるために

 アイビック食品は「北海道の素材で良いものを作る」という軸を持っている会社であり、素材の良さを生かしながらクライアントの要望に沿って、「GOKAN」という施設や「ゴッドタンチーム」と呼ばれる一度食べただけで何でも再現できる味覚をお持ちの開発チームを総動員し、高付加価値な良い商品を作っている会社であると感じました。
 GOKANは、コロナ禍で売れ行きが落ち込んでいる飲食店などを支えるために、アイビック食品の従業員の声から誕生したものです。コロナの影響により、対面での打ち合わせや商品開発等が制限されておりましたが、GOKANでは、キッチンとスタジオが併設されており、商品の撮影やマーケットリサーチを行うこともできます。スクリーンや照明を調節したり、香りが発生する装置を用いたりしてレストランの店内やスーパーの売り場をリアルに再現でき、顧客企業の商品開発や広報支援を行うことができます。GOKANの影響もあり、アイビック食品の顧客企業はコロナ禍においても業績が伸びたそうです。
 コロナという異常事態の中でも、試行錯誤を行い、自社のみならず顧客企業をも支える姿勢に感銘を受けました。
 こうした取組の背景にあるのが、アイビック食品の社風ではないかと思います。アイビック食品では、社員同士の距離が近く、意見を出しやすいアットホームな社風で、経営層の方々も、環境問題をはじめとしたSDGsへの意識も高く、その実現に向け様々な活動の展開を図ろうと努力されています。そんな社風だからこそ、様々な取組が実現できたのではないでしょうか。

今後の展望~ 持続可能な未来へ~

 代表取締役社長の牧野さまは、植林活動にご関心があるようで、植林は、木々が二酸化炭素を吸収し、酸素を放出する効果があるため、地球温暖化対策として重要な手段の一つとされています。アイビック食品では、環境保全に取り組む必要性について考えており、持続可能な社会の実現を目指しています。
 また、海外市場への進出にも意欲的です。昨今の円安の動きを好機と捉え、北海道の素材を使った商品を輸出していきたいとお話しされており、特に海外は日本よりもSDGsへの意識が高いことから、社会課題に配慮しながら製造した高付加価値な商品は、海外からのニーズが高いと考えています。これに伴い、SBT認証の取得に向けて、すでに動き始めているそうです。SBT(Science Based Targets)とは、パリ協定に基づく企業の温室効果ガス排出の国際的な削減目標(年4.2%)のことです。
 こうした取組に力を入れているのは、環境配慮だけではなく、海外展開を見据えてのことだそうで、環境保全と経済発展の両立を図ろうとしていることが伺えます。
 このような取組を通じて、将来的には売上100億円企業となることを目指している、と力強くお話してくださいました。

SBT認証取得に向けた取組

~取材を通じて~

 根昆布は、漁師さんが昆布の一番おいしいところと絶賛する部分にも関わらず、硬さが残ることから廃棄されることが多く、消費者の手には届かない。規格外のトマトは、味はおいしいのに形が悪いから捨てられてしまう。そういった「もったいない」を減らすための取組を行っているというところに私はとても魅力を感じました。
 また従業員が豊かな人生を送ることを支援する福利厚生の手厚さにも衝撃を受け、健康経営もアイビック食品の魅力であると感じました。
 さらに、北海道の素晴らしい事業が途絶えないように事業承継にも力を入れていて、前述した北広島市の「ARTLACZE(アルトラーチェ)」の承継のほか、川の生態系を乱す「レイクロブスター」を食用に加工する事業についても引き継いでおり、アイビック食品は、まさに「持続可能」を実現する企業であるということが伝わってきました。この記事を通してアイビック食品の魅力が伝わっていれば幸いです。

【北海道教育大学札幌校 2年 土井 萌香】

 多くの大学生は「食品業界は、ただ製品を作るだけ」といったイメージを持っているのではないでしょうか。私もその一人でした。しかし、アイビック食品を取材させていただき、そのイメージが大きく変わりました。特に、環境問題に積極的に取り組み、廃棄される食材を活用した調味料作りに挑戦している姿勢には驚きました。社会貢献とモノづくりを両立させる姿勢は、これからの企業に必要なものだと感じました。

 また、アイビック食品のように社員の働きやすさを重視した企業文化が広まることで、製造業に対する見方も変わるのではないかと感じています。大学生にとって、安定した企業で長く働けるという安心感は非常に魅力的であり、そのためにも製造業のポジティブな面をもっと知ってもらうことが大切だと実感しました。アイビック食品の魅力が、これから多くの学生に伝わることを願っています。

【北海学園大学 2年 和田 桜虎】